複雑な在外選挙制度の狭間に置かれて 最終更新日:2021/10/20
私は残りの人生をヨーロッパで生きていきたいと思い、今年8月からエストニアの大学院で学んでいる。2020年夏、「フィンランドのサンナ・マリン首相が1日6時間労働・週休3日制を検討」というニュースを見て、自分の居場所を変えたほうがいいと思ったからだ。周りの女友達の話を聞くかぎり恵まれた職場で働いてはいたが、この国で役員や社長になるキャリアも、ましてやマリン首相のように34歳で首相になる可能性も、”女”の私には見えなかった。エストニアはフィンランドの対岸にあり、Skypeを生んだ電子国家だ。日本よりもジェンダー平等であり自然に優しい環境、スタートアップやサウナの文化に惹かれた。MBAで循環型経済が学べることも、行き過ぎた資本主義にどっぷり浸かっていた私には新鮮だった。
私のような、海外在住で選挙権のある人のために、「在外選挙制度」というものがある。登録は、日本の最終居住地もしくは在住国の日本大使館でできるので、現地で登録しようと思っていた。ところが大使館で手続きをすると、在住国での申請の場合、居住確認のために3か月間の待機期間が必要となってしまう仕組みだった。つまり、衆院選が行われる今年11月、私の選挙権はまだ最後に住んでいた自治体にあることになる。自分なりに調べたつもりだったが、私の解釈が間違っていたのだ。
最終居住地の選挙管理委員会に確認すると、11月に投票するには、一時帰国して期日前投票などする他に手段はないという。代理人の投票は認められない。2021年9月時点で、海外からの入国者に14日間の隔離が求められる日本へ、投票のためだけに帰国することは不可能に近い。オリンピック選手でもないので隔離免除もなし。自分に不利益が生じて初めて、入管法など、さまざまな制度の狭間に置かれた人の気持ちを悟った。
コロナ対策や東京五輪で政治の腐敗を感じたのも海外移住の一因だったので、今回の衆院選でそれが少しでも変わるといい。しかし、私には肝心な一票がきっと入れられない。総務省のサイトには「選挙は、私たち国民が政治に参加し、主権者としてその意思を政治に反映させることのできる最も重要かつ基本的な機会」とあるが、その機会を奪われた気持ちだ。
投票は、政治への意思を示す手段だ。かくいう私も政治に関心を持ったのは、コロナ禍2020年夏の東京都知事選からだった。ニュージーランド在住の知人とZoomで話をしたとき、マスクなしの生活を送る様子を知って衝撃を受けたからだ。同じ島国なのに、こんなにも状況が違う。政治が違ったら自分の生活が変わる。だから私は投票したいし、したかった。
旧ソ連から独立して30年。ロシア語話者が25%を占めるエストニアでは、公的サービスや標識の多くにエストニア語、ロシア語、英語の3か国語が使われている。エストニア語がわからない私にはありがたい。
その一方で、日本の公的サービスや民間で大抵使われていたのは、日本語だけだったことを思い出す。日本語がわからない人にとっては生活するうえで不自由を感じることも多々あるだろう。きっとこの冊子を手に取っている人の多くは日本語話者だと思うので、日本に住む日本語がわからない人のこともぜひ考えてみてほしい。駅やスーパーで困っている人を助けることもできるし、投票にもすぐに行ける人が多いはずだ。
煩雑な在外選挙制度の手続きも、日本語表記だけの情報も、政治のリーダーが変わったらきっと変わる。その手段が投票なのだ。次の選挙で投票できないであろうもどかしさを抱えながら、インターネット投票ができるこの国で今日も暮らしていく。
私のような、海外在住で選挙権のある人のために、「在外選挙制度」というものがある。登録は、日本の最終居住地もしくは在住国の日本大使館でできるので、現地で登録しようと思っていた。ところが大使館で手続きをすると、在住国での申請の場合、居住確認のために3か月間の待機期間が必要となってしまう仕組みだった。つまり、衆院選が行われる今年11月、私の選挙権はまだ最後に住んでいた自治体にあることになる。自分なりに調べたつもりだったが、私の解釈が間違っていたのだ。
最終居住地の選挙管理委員会に確認すると、11月に投票するには、一時帰国して期日前投票などする他に手段はないという。代理人の投票は認められない。2021年9月時点で、海外からの入国者に14日間の隔離が求められる日本へ、投票のためだけに帰国することは不可能に近い。オリンピック選手でもないので隔離免除もなし。自分に不利益が生じて初めて、入管法など、さまざまな制度の狭間に置かれた人の気持ちを悟った。
コロナ対策や東京五輪で政治の腐敗を感じたのも海外移住の一因だったので、今回の衆院選でそれが少しでも変わるといい。しかし、私には肝心な一票がきっと入れられない。総務省のサイトには「選挙は、私たち国民が政治に参加し、主権者としてその意思を政治に反映させることのできる最も重要かつ基本的な機会」とあるが、その機会を奪われた気持ちだ。
投票は、政治への意思を示す手段だ。かくいう私も政治に関心を持ったのは、コロナ禍2020年夏の東京都知事選からだった。ニュージーランド在住の知人とZoomで話をしたとき、マスクなしの生活を送る様子を知って衝撃を受けたからだ。同じ島国なのに、こんなにも状況が違う。政治が違ったら自分の生活が変わる。だから私は投票したいし、したかった。
旧ソ連から独立して30年。ロシア語話者が25%を占めるエストニアでは、公的サービスや標識の多くにエストニア語、ロシア語、英語の3か国語が使われている。エストニア語がわからない私にはありがたい。
その一方で、日本の公的サービスや民間で大抵使われていたのは、日本語だけだったことを思い出す。日本語がわからない人にとっては生活するうえで不自由を感じることも多々あるだろう。きっとこの冊子を手に取っている人の多くは日本語話者だと思うので、日本に住む日本語がわからない人のこともぜひ考えてみてほしい。駅やスーパーで困っている人を助けることもできるし、投票にもすぐに行ける人が多いはずだ。
煩雑な在外選挙制度の手続きも、日本語表記だけの情報も、政治のリーダーが変わったらきっと変わる。その手段が投票なのだ。次の選挙で投票できないであろうもどかしさを抱えながら、インターネット投票ができるこの国で今日も暮らしていく。
鳥井美沙
小さな生活革命を楽しむエストニア在住のフェミニスト。夢は森のサウナ付きの家でなるべく環境負荷の少ない暮らしをすること。個人メディア The Seed などで執筆。